安心して相談できる呉服店であるために|お客様から寄せられるご相談と当店の姿勢

皆さま、こんにちは。染と呉服はっとりの女将です。
少し、踏み込んだ話をさせてください。
最近、当店に初めてお越しになるお客様の中に、こんな言葉を口にされる方が増えています。
「前の着物屋さんで、嫌な思いをして……。もう着物屋には行きたくないと思っていたんですが、勇気を出して来てみました」
この言葉を聞くたびに、私は着物を愛する者として、そして着物屋として、申し訳ない気持ちと、悔しい気持ちが交錯します。
着物が好きなのに、着物屋に行くのが怖くなってしまった——そういう方が増えていることは、業界全体の問題です。今日は、当店に寄せられた「ご相談」の実例をご紹介しながら、どう身を守るか、そして当店がどういう姿勢でいるかを、正直にお伝えしたいと思います。
当店に届いた「困った」の実例
以下は、当店にお越しになったお客様から実際にお聞きした体験です。お名前や詳細は変えていますが、内容は事実に基づいています。
事例① 裄丈直しで行ったら、新しい訪問着を買わされそうになった
「裄丈を直してほしいと持っていったら、『この着物は生地が弱っているから筋消しが必要で、それだけで相当な費用がかかりますよ』と言われました。費用を誇張されている気がして不安になっているところへ、『同じお金を払うなら、新しい訪問着を誂えたほうがいいんじゃないですか』と勧められ始めて。断っても断っても話を続けてくるので、結局なにも頼まずに逃げるように帰ってきました」
裄丈直しは着物の仕立て直しの中でも基本的な作業です。生地の状態によっては追加作業が必要なこともありますが、それを理由に高額な新品購入を勧めるのは、本来の着物屋のあり方ではありません。「逃げるように帰った」という言葉が、胸に刺さります。
事例② 着付け小物を買いに行っただけなのに、翌月からLINEで宣伝——ついには自宅に展示会の勧誘
「帯締めを一本買いに行っただけなのに、住所と電話番号とLINEを聞かれて。断るのも気まずくて教えてしまいました。翌月からLINEで展示会のお知らせが毎週来るようになって、ついには自宅まで展示会の案内を持って押しかけてきました。もう怖くて、その店の前を通るのも嫌になりました」
着付け小物を一点購入しただけで、自宅への訪問勧誘が始まる——これは着物の問題ではなく、営業倫理の問題です。個人情報は、お客様が自ら必要と判断した場合に提供するものであり、来店の都度、強引に聞き出すものではありません。
事例③ 長襦袢を一度買っただけなのに、毎月自宅へ展示会の案内
「一度だけ長襦袢を買った着物屋から、毎月展示会の案内が自宅に届くようになりました。断ったのですが、それでも毎月来る。そのうちお断りすること自体がストレスになってしまって。主人に相談して、当店に変えることにしました」
「断ったのに来る」——これは明確に、お客様の意思を無視した行為です。一度の購入が、毎月のストレスになってしまった。着物が好きなお客様が、着物から遠ざかるきっかけになってしまう。これほど残念なことはありません。
事例④ 見るだけで行ったのに、翌月から電話——若い女性店員が自宅まで
「展示会を見るだけのつもりで行ったら、氏名と住所と電話番号を書かせられました。その翌月から毎月電話がかかってくるようになって。若い女性の店員さんが直接自宅まで来るようになり、断るのも申し訳なくて、玄関先で長々と話を聞かされました。主人が怒ってしまって、もうその店には絶対行かないと決めました」
「見るだけ」という意思表示を無視して個人情報を書かせ、自宅訪問を繰り返す——これはもはや着物の話ではありません。お客様ご夫婦の関係にまで影響を与えてしまっている。着物屋として、本当に恥ずかしいことだと思います。
事例⑤ 娘の振袖の相談をしたら、執拗な電話勧誘が続いた
「娘の振袖のことを相談したくて着物店に入ったのですが、まずその場で契約を迫られて。保留にして帰ってきたら、翌日から毎日のように電話がかかってきました。『早くしないと良いものがなくなります』『この価格は今だけです』と毎回言われて、だんだん電話を取るのも怖くなりました。結局、別の店で相談することにしましたが、あの電話のストレスは今でも忘れられません」
「早くしないと」「今だけ」という言葉で焦らせ、毎日電話をかけ続ける——これは振袖業界で特に横行している手口です。娘さんの晴れの成人式を、お母様のトラウマと共に迎えさせてしまいかねない。
なぜこういうことが起きるのか——業界の構造として
これらの事例を「一部の店の話」として片付けることは、正直ではないと思います。
着物業界には、こういった営業が横行しやすい構造的な背景があります。
着物の販売は「高額・一点集中型」になりやすい
着物は一点あたりの単価が高い商品です。一枚の訪問着を買っていただければ、それ一件で相当な売上になります。そのため、「来店したお客様を絶対に手放さない」という営業スタイルが生まれやすい。
「展示会」という名の長時間囲い込み
展示会という形式は、お客様を特定の空間に長時間留め置き、断りにくい状況を作り出します。「せっかく来ていただいたのだから」という心理的な圧力のもとで、本来必要のないものを購入してしまうケースが多く報告されています。
個人情報の「自動登録」
一度でも購入や問い合わせをすると、住所・電話番号・LINEが自動的に営業リストに加えられ、以降は定期的な接触が続く——これは意図的なシステムとして運用されている店があります。
着物業界に身を置く者として、こういった実態を黙って見ていることができません。「着物は好きだけど着物屋が怖い」という方を一人でも減らすことが、着物文化を守ることにつながると信じています。
※この記事は、複数のお客様から寄せられた一般的なご相談をもとにまとめています。特定の店舗を指すものではありません。誠実に営業されている呉服店も多くあります。
こういった営業から身を守るために
着物に興味のある方が、安心して着物屋を利用できるよう、身を守るための知識をお伝えします。
① 個人情報は「必要な場合だけ」提供する
着付け小物一点の購入や、ちょっとした相談で住所・電話番号・LINEを聞かれても、提供する義務はありません。「必要な場合にお知らせします」と断って構いません。誠実な店は、それ以上聞いてきません。
② 「今日だけ」「今すぐ」という言葉は警戒する
「この価格は今日だけ」「今決めないと枠がなくなります」——こういった言葉は、お客様に考える時間を与えないための手段です。誠実な店は、急かしません。考える時間を必ず差し上げます。
③ 「断る」ことを恐れない
来店したからといって、購入する義務はありません。「今日は見るだけです」「持ち帰って考えます」は、正当な意思表示です。その言葉を無視して話を続けてくる店は、去っていい店です。
④ 迷惑な連絡は、はっきり断る権利がある
LINEの配信停止、電話勧誘の停止、自宅訪問の拒否——これらはお客様の正当な権利です。「もう連絡しないでください」と明確に伝えることは、失礼でも何でもありません。それが続く場合は、消費者センターへの相談も選択肢のひとつです。
⑤ 「良い店かどうか」は最初の対応で分かる
最初の来店で、じっくり話を聞いてくれるか。急かさないか。「見るだけでも大丈夫ですよ」と言ってくれるか。「今日は決めなくていいですよ」と言ってくれるか——これらが、誠実な店かどうかを見極める最初のポイントです。
当店が、絶対にしないこと
では当店はどうか——正直にお伝えします。
当店が「絶対にしない」と決めていることがあります。
- ✕ 住所・電話番号・LINEを強引に聞き出すこと。お客様が「必要になったときに教える」と言えば、それを尊重します。
- ✕ ご了解なく自宅に押しかけること。展示会の案内も、ご希望の方にのみお送りします。
- ✕ 「今日だけ」「今すぐ」という言葉でお客様を急かすこと。着物の購入は、十分に考えてから決めていただくものです。
- ✕ 「見るだけ」のお客様に購入を迫ること。見るだけでいい。相談だけでいい。それが出発点で構いません。
- ✕ 断られた後も連絡を続けること。「もう連絡しないでください」とおっしゃったお客様に、それ以後ご連絡することはありません。(そもそも、こちらから営業電話はすることは、ありません)
- ✕ 必要のない追加作業を誇張して新品購入に誘導すること。裄丈直しをご依頼なら、裄丈直しに誠実に向き合います。
- ✕ 断ったお客様に対して、感情的な押しの営業をすること。お断りはお断りとして、きちんと受け止めます。
当店の商いは「一回売ったら終わり」ではありません。お客様と長くお付き合いすることで成り立っています。強引な営業でその場の売上を作っても、お客様の信頼を失えばそれで終わりです。四代続いてきた老舗がなぜ続くかといえば、それは「また来てもらえる」からです。
「前の店で嫌な思いをした」方へ
この記事を読んでくださっている方の中に、「そうそう、うちもそうだった」と思われた方がいるかもしれません。
あなたは、何も悪くありません。
断りにくい状況を意図的に作り出し、個人情報を使って繰り返し接触してくる——それは着物屋の本来の姿ではありません。そういう経験をされたことで、着物そのものが嫌いになってしまっていないか、それだけが心配です。
着物は、あなたを困らせるためにあるのではありません。
晴れの日を飾るため、季節を楽しむため、大切な人の記憶を受け継ぐため——着物はそのために存在します。
前の店で嫌な思いをされた方が、「ここならもう一度、着物の話をしてみようかな」と思えるような場所でありたい——それが当店の願いです。
「前の着物屋さんで嫌な思いをして、ずっと着物屋には行けなかったんですが……。ここに来て、初めてゆっくり話を聞いてもらえた気がします」
——当店に初めてお越しになったお客様のお言葉
この言葉が、私たちには何よりの励みです。
まず「見るだけ」でも「相談だけ」でも大丈夫です
当店にお越しになるとき、何も決まっていなくて大丈夫です。
「裄丈を直したいんですが、費用を確認したいだけで」
「着付け小物を探しているんですが、まず見てみたくて」
「娘の振袖のことを、まず話だけ聞いてほしい」
「前の着物屋さんで嫌な思いをして、今の着物の状態を診てほしいだけで」
——どんな理由でも、どんな段階でも、お越しください。
話を聞いて、お見積もりをして、「今日は持ち帰って考えます」でも、まったく構いません。押し売りはしません。住所も電話番号も、必要なければ聞きません。
ただ、着物のことで困っているなら——一緒に考えさせてください。
それだけでいいのです。
染と呉服はっとり 女将
染と呉服はっとりの約束
- ✦見るだけ・相談だけのご来店を歓迎します
- ✦その場での購入を急かしません。持ち帰ってゆっくり考えていただけます
- ✦個人情報(住所・電話・LINE)はご了解なく求めません
- ✦自宅へのご案内・訪問は、ご希望があった場合のみです
- ✦ご依頼の作業に誠実に向き合い、必要以上の追加を勧めません
合わせて当店のGoogleの口コミなどもご参考になさってください。 Googleの口コミ
ご相談やお問い合わせにつきましては

あわせてお読みください
- 奈良で着物はどこで買う|失敗しない呉服店の選び方【老舗が解説】
良い呉服店・悪い呉服店を見分けるための具体的な判断基準 - 着物ってハードル高いですか?|呉服店が寄り添います
着物屋が怖くなってしまった方に読んでほしい記事 - 着物文化を次世代に残すということ|奈良の呉服店としての使命
当店が着物と向き合う理由と、業界への想い