幸せを呼ぶ訪問着|奈良の呉服店で生まれた奇跡の物語

伝説の訪問着
正倉院華文と蝶の吉祥文様——この着物を纏った方に次々と幸せが訪れる
このことをブログに書くかどうか、長い間迷っていました。
「信じてもらえないかもしれない」「大げさだと思われるかもしれない」——そんな気持ちがあって、お客様からご報告をいただくたびに「嬉しいことですね」と感謝しながら、公にすることを躊躇していました。
でも重なることには意味があると思うようになりました。
思えば先代から続いていたことですので約40年 お客様の数は24名様
今日は当店に伝わる、一枚の訪問着の話をします。
◇ ◇ ◇
一 その着物との出会い
当店にある一枚の京友禅手描きの訪問着があります。
正倉院の宝物に伝わる「華文(かもん)」と「蝶(ちょう)」を主題にした文様の訪問着です。
地色や差し色・刺繍の色を変えたバリエーションを作っていますが、構図の核心は変わりません。正倉院から伝わる華やかで格調ある華文の中に、蝶が舞う——その組み合わせです。
京都の染匠が手描きで丁寧に染め上げた一枚です。筆の線の精度・色の深み・蝶の羽の繊細な刺繍——着物として見ても最高峰の仕事が施されている一枚です。
最初は、ただ美しい着物だと思っていました。
それが、いつの間にか「奇跡の訪問着」と呼ばれるようになりました。
◇ ◇ ◇
二 正倉院華文と蝶——1300年の吉祥の意味
この着物の文様が持つ意味を知ると、起きたことへの感慨が深まります。
文様の意味 正倉院文様とは、奈良時代に光明皇后が聖武天皇追善のために東大寺に献納した遺愛品を保存した正倉院の中から発見された染織品に見られる文様のことです。日本古典文様の中で最古に位置づけられ、格調の高い文様として知られています。
シルクロードを通じてペルシャ・インド・中国から奈良へ——正倉院の文様は、1300年以上前に世界を旅してこの土地に宿った美の精華です。奈良という土地は、その世界の美意識が結晶した場所でした。
華文(かもん)——あらゆる花の喜びを一つに
正倉院の綾や錦に見られる「華文」は、特定の花を表したものではありません。花という存在そのものの美しさ・生命力・祝福を図案化した文様です。
インドから唐を経て日本に伝えられたこの文様には、「華麗な花文様」という意味が込められています。
花が咲くことは、喜びの訪れの象徴です。古来より世界の人々が花を祝い・花を供え・花に願いを込めてきた——その普遍的な感覚が、正倉院の華文に凝縮されています。
蝶(ちょう)——変容・不死・幸せの訪れ
蝶の文様は、着物の世界で古来から「吉祥文様」として重んじられてきました。
蝶が吉祥とされる理由のひとつは「変容」です。さなぎの中で完全に形を変え、美しい姿で羽ばたき飛び立つ——この劇的な変容は「不死」「再生」「魂の自由な飛翔」の象徴として世界中の文化で尊ばれてきました。
また蝶は「幸せが飛んでくる」という言い伝えとも結びついています。蝶が家に入ってくると良いことがある、という感覚は現代の日本にも残っています。
さらに正倉院の染織品の中には「花卉蝶文(かきちょうもん)」——花と蝶を組み合わせた文様——が実際に存在しています。この二つの組み合わせは1300年前から「喜びが飛んでくる」という祝福の表現だったのです。
正倉院の華文と蝶が重なるこの訪問着は、1300年前から祝福の意味を持つ二つの文様を纏った着物です。奈良という、その文様が生まれた土地に今も伝わるこの着物に、何かが宿っていても不思議ではないかもしれません。
◇ ◇ ◇
三 重なっていった「奇跡」——5つのお話
私の代になってからのお話をさせていただきます。先代の父の代での出来事もこれから書き記す内容とほぼ同じ様なことが起こっておりました。おめでたのお話が後に届くのです。
お客様のプライバシーを守るため、具体的なお名前・年齢・詳細はお伝えできませんが、ご本人から当店へのご報告をいただいた出来事をそのままお伝えします。
第一話 3ヶ月後に結婚が決まった
結婚を望んでいたが、なかなかご縁に恵まれなかったお嬢様が、お母様と一緒に当店にお越しになりました。
その日、この訪問着をご覧になったとき「なんか、この着物が気になる」とおっしゃいました。特別な理由があったわけではないとのこと。「ただ、目が離せなかった」という感じで、ご購入されました。
それから5ヶ月後。
「先日、婚約しました。お母さんと一緒にあの着物を買いに行ったのが、不思議な縁の始まりだったかもしれません」
というご連絡をいただきました。その半年後、結婚式を迎えられたとのことです。
不思議な話ですが、決まる時はものすごい早さで物事が決します。
嬉しいご報告でした。
第二話 購入後すぐ、彼が現れた
長年当店のお得意先でいらっしゃる方が、ある日この訪問着を手に取られました。その方は士業をされておられ、新年会の装いとして大変気に入っていただきました。
特に縁談の話があったわけではありません。結婚も全くする気が無かったそうです。
ただ、この着物が気に入って購入されました。
しばらくして——
「あの着物を買ってから、突然彼が現れて、そのままお付き合いが始まって、結婚することになりました」
とご報告をいただきました。ご本人も「あの着物のおかげかしら」と笑っておっしゃっていました。
本当に驚きましたが、何度聞いても嬉しいご報告です。
第三話 茶道のために買ったら、結婚が決まった
茶道の初釜のために着物をお探しだった方が、この訪問着と偶然、出会いました。茶の席に合う格調ある柄として選ばれたのです。
縁談のことは、その時点では特に話題に上がっていませんでした。それよりお稽古事が楽しくてならなかったご様子でした。
ところが——
「お茶のために買ったんですけど、あの後すぐに縁談が決まって。なんかあの着物、不思議ですよね」
とおっしゃいながら、嬉しそうに報告してくださいました。
第四話 妊娠が分かった
ご結婚されて、しばらく経ったお嬢様の為に、お母様と一緒にお着物を選びにお越し下さいました。
お店に入ると直ぐに目に留めていただき、何枚か他の着物もある中、目もくれずお買い求め下さいました。早くその着物を着て友人の結婚式に参加したいお嬢様でしたが、半年後妊娠がわかりおめでたとなりました。
「結婚式に着れるか不安でしたが、悪阻もおさまり着れました。友人からも素敵な着物ね、と褒められました」とご報告が入った時には、力が抜けるほど嬉しかったことを覚えています。実は、妊娠は難しいとお医者様から言われておられました。
この頃から私も店頭にて「伝説の訪問着」と正式に呼ぶようになりました。
第五話 3人目のお子様が生まれた
幸せなご家庭で、二人のお子様に恵まれていたお客様が、お子様の七五三のためにこの訪問着をお求めになりました。
後に当店に来られたとき、とても嬉しそうな表情でお話してくださいました。
「実は、3人目がずっとできなくて……。あの着物を着てしばらくして、3人目を授かったんです。男の子が生まれました」
私も驚きました。既にともてとても幸せでそれ以上は・・・と思っていたところ、まだまだ幸せが訪れました。
生まれた直ぐの赤ちゃんと一緒に当店にお越し下さり、大女将も抱っこさせていただきました。
嬉しいご報告に、呉服屋をしていて本当に良かったと心から思えます。
周囲からも祝福されて、今は賑やかに過ごされているとのことでした。
◇ ◇ ◇
四 偶然から確信へ——女将として感じること
正直に言います。最初は偶然だと思っていました。
最初のご報告をいただいたとき「良かったですね、おめでとうございます」と思い、それ以上でも以下でもありませんでした。
二つ目のご報告をいただいたとき「ご縁があったんですね」と思いました。
三つ目のご報告をいただいたとき、少し不思議な気持ちになりました。
四つ目のご報告で、先代の時の訪問着のおめでた続きが思い起こされました。
そして五つ目のご報告——3人目のお子様が生まれたというお知らせをいただいたとき、「これは偶然ではないかもしれない」という気持ちが確信に変わりました。
着物に命が宿ることがある。文様に祈りが宿ることがある。1300年前から吉祥の意味を持つ文様が、今も生きて働いているとしたら——
私は着物屋です。論理的に説明できないことは言わないようにしてきました。でもこれだけのことが重なると、着物の持つ力というものを、改めて感じずにはいられません。
正倉院の華文は、1300年以上にわたって人々に愛されてきた文様です。インドから唐から奈良へ——世界を旅してこの土地に宿った祝福の文様が、今も何かを引き寄せているとしたら。
蝶は変容と幸せの訪れの象徴です。さなぎが蝶になるように、人生が変わる瞬間を、蝶の文様が呼んでいるとしたら。
奈良という土地——正倉院が眠り・東大寺が輝き・1300年の祈りが積み重なっているこの土地——で生まれたこの訪問着に、何かが宿っていても不思議ではないと思っています。
◇ ◇ ◇
五 この訪問着について
この訪問着は、地色・差し色・刺繍の色を変えたバリエーションがあります。同じ文様でも、地色や地紋が異なるとまったく違う表情を持ちます。
象牙色・薄桜・水色・薄藤——それぞれの地色が、纏う方の顔映りに響き合います。
着物として見ても、京友禅の手描きの技術・染めの深み・蝶の羽の繊細な刺繍——最高峰の仕事が施された一枚です。当店が自信を持ってお勧めできる訪問着です。
ご結婚を控えている方・お子様を望んでいる方・人生の新しい扉を開こうとしている方——この着物をご覧になりたい方は、ぜひ当店にお越しください。
ただし、制作にも時間を要する為、常時店頭に並べているわけではないのです。着物があっても加工に出している期間は展示することも叶いません。ご縁がある方にしかこの着物はお手にしていただけないのかもしれません。
実物を前にしたとき、何かを感じるかどうかを、あなた自身で確かめてみてください。
◇ ◇ ◇
最後に、お幸せのご報告を届けてくださったすべてのお客様に、心から感謝を申し上げます。
皆さまの笑顔のご報告が届くたびに、着物の仕事を続けることの意味を深く感じています。
この着物が、次にどなたかの人生に光を届けることを、当店は静かに願っています。
奈良 染と呉服はっとり ©
この記事は奈良の呉服店 染と呉服はっとりが執筆しています ©
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