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女将直伝|良い着物を見分ける5つのポイント|呉服屋の目利きはここを見る

振袖 絞りと友禅の競演

呉服屋の目利きはここを見る——3歳から着物と生きてきた目が教える、本物の見分け方

前回の記事の続編として「呉服の目利きとは、何か。」について記しておきます。

「目利きの具体的なポイントを教えてほしい」というご要望が多いので、今回はその続編として、私が着物を見るときに実際にチェックしている5つのポイントをお伝えします。

「良い着物」と「そうでない着物」を見分けるための感覚は、言葉にするのが難しいものです。でもできるだけ具体的に、実際の見方・触り方・感じ方に即してお伝えします。

次に着物を選ぶとき・タンスの着物を見直すとき・呉服店で迷ったとき——この5つを思い出してください。

この記事でお伝えする5つのポイント|①染めの「深み」を見る ②織りの「密度と温度」を触る ③色の「奥行き」を光で確かめる ④文様の「線の精度」を目を近づけて見る ⑤着物全体の「気配」を感じる

ポイント1 染めの「深み」を見る ——表面に色があるか、布の奥から色が滲み出ているか

最初に見るのは「染めの深み」です。

良い着物と普通の着物の最も大きな違いのひとつが、この「染めの深み」にあります。

同じ「赤」でも、見た目がまったく違う赤があります。

一方は、布の奥から光が滲み出てくるような赤。もう一方は、布の表面に赤い絵の具を塗ったような赤。

前者が「染めの深い着物」、後者が「染めの浅い着物」です。

なぜこの違いが生まれるのか。染色の工程の違いです。良い友禅染めや無地染めは、絹の繊維の奥まで染料を浸透させる工程を何度も繰り返します。時間がかかり、手間がかかる分、染料が布の深いところまで入り込みます。安価な染めは工程が少なく、染料が布の表面に留まります。

見分け方を具体的に言います。

着物を少し遠ざけて、全体を見てください。良い染めの着物は、遠くから見たとき色に「輝き」があります。一言で言えば「生きている色」です。安い染めは、遠くから見ると少し「くすんで」見えます。

チェック 着物を広げて少し遠ざけ、色に輝きがあるか・くすみがないかを確認する。光のある窓際で見るとより分かりやすい。

もうひとつの見方があります。着物の色を見ながら、少し角度を変えてみてください。

良い染めは、角度を変えても色の深みが変わりません。むしろ角度によって違う輝きが見える。安い染めは、角度を変えると色が薄くなったり、均一さが崩れます。

「光を当てて角度を変えても、色の深みが変わらない着物は、染めが良い」

これが私の最初の確認です。

ポイント2 織りの「密度と温度」を触る ——均一に詰まっているか、手の温もりが伝わってくるか

次は手で触れます。

着物の素材感——特に正絹の着物——は、手に触れた瞬間に多くのことを教えてくれます。

まず「密度」を感じてください。

良い西陣織・良い綸子・良い縮緬は、緻密に織られています。指で軽く押すと、しっかりとした抵抗感があります。スカスカした感触はありません。

ただし「硬い」のとは違います。密度が高くても、良い絹織物は柔らかい。「緻密なのに柔らかい」——これが上質な正絹の感触の特徴です。

次に「温度」を感じてください。

手触りに温かみがあるかどうかを確認します。これは温度の話ではなく、感触の「人間味」とでも言うべきものです。

機械で均一に織られた布には、手仕事にはない「冷たさ」があります。手で織られた布・手で整えられた布には、どこかに「不均一さ」があります。この不均一さが「温度」の正体です。

完全に均一なものには温かみがない。人の手の痕跡が、布に温もりを与える。

良い大島紬を触ったとき・良い結城紬を触ったとき、この「温度」を感じる方が多いです。

チェック 指先で軽く押してみる。しっかりした密度があるか。次に手のひら全体で触れる。冷たく硬い感触でなく、柔らかく温かみがあるかを確認する。

訪問着・色無地・留袖など礼装の着物は、縮緬地・綸子地が多い。

良い縮緬は、触れると独特のしぼ(表面の細かい凹凸)が均一に整っていて、それが手のひらに心地よい摩擦感を与えます。この「しぼの整い方」も、縮緬の質の確認ポイントです。

ポイント3 色の「奥行き」を光で確かめる ——色が一枚か、何層にも重なって見えるか

3番目は「色の奥行き」を確認します。

ポイント1の「染めの深み」と似ていますが、少し異なる確認です。

着物を窓際の自然光の下で見てください。人工照明より自然光の方が、色の本来の姿が見えます。

良い色は「何層にも重なって見える」ことがあります。手描き友禅の花びら一枚を拡大して見ると、中心部・中間部・輪郭部で色の濃さが微妙に変わっているのがわかります。これが「ぼかし」の技術で、良い手描き友禅の色は均一ではなく、グラデーションを持っています。

印刷物の色は均一です。機械染めの色も均一です。でも手仕事の色は均一ではない——この「均一でない美しさ」が手仕事の色の奥行きの正体です。

チェック 着物を自然光の下で見る。色が均一か、中心から輪郭に向かって微妙な濃淡の変化があるかを確認する。グラデーションのある色は手仕事の証。

加えて「色の純度」を見ます。

手描き友禅の色は「澄んでいる」のに「深い」という不思議な質を持っています。澄んでいるというのは、色に濁りがないということ。深いというのは、色に奥行きがあるということ。この二つが両立しているとき、色が最も美しく見えます。

型染め・プリント染めの色は、澄んでいるかもしれないが深みがない。または深みがあっても澄んでいない。この「澄んでいて深い」という両立が、良い着物の色の条件です。

着物の色を確認するとき、「自然光で・少し距離を置いて・角度を変えながら」という三つの観点で見ると、色の奥行きがよくわかります。ショップの照明は着物を美しく見せるよう設計されているので、窓際の自然光での確認が最も正確です。

ポイント4 文様の「線の精度」を目を近づけて見る ——輪郭が震えているか、迷いなく描かれているか

4番目は「文様の線」を確認します。

着物の文様——特に手描き友禅の花や葉、訪問着の絵柄——を、少し目を近づけてよく見てください。

文様の輪郭線を見ます。以前、京友禅の制作について触れていますが、糸目を見ることが重要だと思っています。

良い手描き友禅の輪郭線は「迷いがない」線です。筆が布の上を滑るように流れ、輪郭が一筆の力感を持っています。線が震えていない・かすれていない・途中で止まっていない。

反対に、手が震えた線・途中で止まりかかった線・書き直した痕跡がある線は、職人の迷いが出ています。

一本の輪郭線に、職人の技術と気合いのすべてが凝縮されている。

友禅染めの「糸目糊(いとめのり)」という工程があります。文様の輪郭に防染糊を細い筒から絞り出して線を描き、その後で彩色します。この糸目糊の線が、着物の文様の骨格です。

良い糸目糊の線は、細くて均一で、きれいに整っています。粗い糸目糊の線は、太さが不均一で、輪郭がぼやけています。

チェック 着物の文様の輪郭線に顔を近づけて見る。線が均一な細さで、迷いなく描かれているかを確認する。線が細く均一なほど職人の技術が高い。

文様の「詰まり方」も見ます。

良い訪問着・付下げは、文様の隅々まで丁寧に描かれています。「見えない場所」——着付けたときに帯で隠れる部分・袖の内側——にも手を抜かない。

帯で隠れる胴の部分の文様を確認してみてください。同じ丁寧さで描かれていれば、その着物は全体が丁寧に作られています。逆に隠れる部分が雑なら、職人が手を抜いた証拠です。

これは着物に限らず、すべての工芸品の共通の真実です——「見えない場所こそ、本物の差が出る」。

ポイント5 着物全体の「気配」を感じる ——広げた瞬間に「ただならぬもの」を感じるかどうか

最後の5番目は、最も説明しにくいポイントです。

「気配」と私は呼んでいます。

良い着物を広げた瞬間、何かが違うと感じることがあります。言葉にするのが難しいのですが——着物全体から「ただならぬもの」が漂ってくる感覚です。

これは個々の要素——染め・織り・色・文様——が優れているというだけでなく、それらが統合されたときに生まれる「着物全体の品格」のことです。

譬えるなら、個々の楽器が上手に演奏されているだけでなく、オーケストラ全体が一つの音楽になっているときの感動——に似ています。

この「気配」は、ポイント1〜4を全部クリアした着物が持つ、最終的な到達点です。

具体的に言うと——

着物を広げたとき、その着物が「その場の空気を変える」感覚があるかどうか。

良い着物は、広げた瞬間に部屋の雰囲気が変わります。染めの深みと色の奥行きと文様の精度が合わさって、存在感というものが生まれます。

チェック 着物を広げて、しばらく無言で見る。「何かが違う」という直感的な感覚があるか。言葉にならない感覚こそが、目利きの最終判断です。

ただ、この感覚は訓練なしには得られません。良いものを多く見続けることで初めて、比較の基準が体に作られます。

当店で着物をご覧になるとき——ぜひ言ってください。「女将、これとこれ、どう違いますか」と。

並べながら説明することが、最も早く「気配」を感じる感性を育てる方法です。

◇  ◇  ◇

5つのポイント・まとめ

No見るポイント確認の方法
1染めの「深み」遠ざけて全体を見る。色に輝きがあるか。角度を変えても深みが変わらないか
2織りの「密度と温度」指先で押してみる。密度があるか。手のひら全体で触れ、冷たくなく温かみがあるか
3色の「奥行き」自然光の下で見る。色が均一でなく、グラデーションや多層感があるか
4文様の「線の精度」輪郭線に顔を近づける。線が均一で迷いなく、隠れた部分も丁寧に描かれているか
5着物全体の「気配」広げてしばらく無言で見る。「何かが違う」という直感的な感覚があるか

この5つのポイントは、私が毎日着物を見るときに自然にやっていることです。

最初は意識してやってみてください。続けているうちに、意識しなくても自然にできるようになります。それが「目が育つ」ということです。

良い着物を見る機会が欲しい方——ぜひ当店にお越しください。並べながら・触れながら・説明しながら、一緒に目を育てましょう。

着物を選ぶことは、自分の目を育てることでもあります。

女将の目利きについては、こちらの記事を参考に

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