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本当に良い着物を選ぶとき、女将はどこを見るのか|女将の目利き

訪問着 鳳凰と菊花 飛鳥・藤原宮の世界遺産から

「高級」「逸品」という言葉だけでお勧めすることは、私どもはしません。技法、生地、染め、そして着姿——四つの眼で、一枚一枚に向き合います。

「良い着物」という言葉を、私は気軽に使いません

呉服の世界では、「逸品」「一級品」「高級」という言葉がよく使われます。でも私は、そういった言葉だけでお客様に着物をお勧めすることを、意識的に避けています。

なぜか。「良い」という評価は、何かを根拠にしていなければ、ただの言葉だからです。その着物が、どのような技法で作られているのか。どのような生地を使っているのか。染めや織りにどのような仕事が施されているのか。そして、実際にお召しになったときに美しいか。そこを一つひとつ確認した上でなければ、「良い」とは言えないと思っています。

今日は、私が着物を見るとき、具体的にどこを見ているのかをお話しします。着物を「買う立場」で知っておいていただくことで、これから着物を選ぶときの眼が、少し変わるかもしれません。

「着物の良し悪しは、触れば少しわかります。纏えばもう少しわかります。何百枚、何千枚と向き合い続けて、ようやく言葉になってきます。私が『良い』と申し上げるときは、その積み重ねの上に立っています」

私が着物を見るとき、確かめていること|女将の目利き

一枚の着物を前にしたとき、私が確かめることは大きく四つあります。どれか一つだけでは判断できません。四つが揃ってはじめて、「この着物はお客様にお勧めできる」という確信になります。

眼 01技法

どのような技法で作られているか。手描き友禅か、型友禅か。手織りか、機械織りか。刺繡は手刺繡か、ミシンか。技法はそのまま、込められた時間の量に比例します。職人が作ったものか、機械が大量生産したものかを見ています。

眼 02生地

どのような白生地を使っているか。絹の糸の細さ、撚り、織りの密度——生地はすべての土台です。優れた生地は、触れた瞬間に肌へ吸い付くような感覚があります。

眼 03染め・織り

色の澄み方、発色の深さ、柄の流れ方。同じ「赤」でも、職人が調合した赤と、機械が出した赤は、光の当たり方が変わったときに差が出ます。そこを見ます。

眼 04着姿

実際にお召しになったとき、美しいか。平面で広げたときの美しさと、立体の人体に纏われたときの美しさは別物です。最後はこれが一番大切です。

これらを順番に確かめながら、「この着物は、誰のために、どんな場面でお勧めできるか」を考えます。四つすべてに納得できない着物は、どれほど評判が良くても仕入れません。

どのような技法で作られているか

着物の技法は、その着物に「誰の時間が込められているか」を教えてくれます。

京友禅の手描きは、図案家が描いた下絵をもとに、糸目糊置き、彩色、蒸し、水洗いと、多いときで十人以上の職人が工程を分担します。一人の職人が全部をこなすわけではなく、それぞれの専門家が積み重ねていく。この分業の精度が、京友禅の精緻さを生んでいます。

加賀友禅は、一人の作家が下絵から彩色まで一貫して手がけることが多い。だから「作家の個性」が直接にじみ出ます。虫喰いと呼ばれる技法・加賀五彩を巧みに使い美しい文様を描きます。自然の写実に対する深い観察が、柄の中に刻まれています。

「手仕事」と「機械」の差は、どこに出るか

手描き友禅と型友禅、手織りと機械織り——技法の差が最も出るのは、「ゆらぎ」です。手仕事の線には、機械では出せない微妙な揺れがあります。糸目の線、友禅の色の境界、織りの目——それらが完璧に均一ではないことが、なぜか美しく見える。これは人間の眼が、自然のゆらぎを美しいと感じるからだと私は思っています。

逆に言えば、機械の仕事は「整いすぎている」ことで見分けがつくことがあります。均一すぎる線、寸分の狂いもない柄の繰り返し——それは技術として優れていますが、着物に纏ったとき、不思議と「平面的に見える」ことがあります。また、退屈な感じを覚えることもあります。

「技法を知ることは、着物の価格の理由を知ることです。そしてそれは、『なぜ高いのか』ではなく、『何にお金がかかっているのか』を理解することです。その違いは、着物選びの眼をまったく変えます」

あるお客様との会話から|実話

「この着物とこの着物、同じように見えるのに、なぜこんなに値段が違うんですか」と、二枚の訪問着を前にしておっしゃったお客様がいました。

私は糸目の線を指でなぞりながら、申し上げました。「こちらは糸目糊置きを職人が手で引いています。線に微妙なゆらぎがある。こちらはスクリーンで型を取っています。線が均一すぎる。触ってみてください」と。

お客様が指でそっと線をなぞって、「あ、違う」とおっしゃいました。言葉より先に、指が答えを出してくれました。

女将の言葉

着物の差は、目でなく手で感じることもできます。店で実物に触れるとき、ぜひ糸目の線、生地の手触りを確かめてみてください。

どのような生地を使っているか

着物の染めや柄がいかに美しくても、生地が土台として機能していなければ、それは完成していません。生地は着物の「骨格」です。

京友禅に使われる生地の多くは、丹後で織られた白生地です。丹後ちりめん、一越ちりめん、綸子——それぞれの素材が、染めたときの発色、纏ったときの光の映え方、着心地に大きく影響します。私どもは、着物を見るとき、まず白生地の産地と素材を確かめます。

絹の質は、触れればわかる

絹の質は、触れればある程度わかります。上質な絹は、手にした瞬間に「冷たさ」があります。そして肌に当てると、すぐに体温を拾って温かくなる。この冷たさと温かさの両立が、絹の特性です。

また、しなやかさも重要です。強く握っても、離すとすっと元に戻る。これは生地の「腰」と呼ばれるものです。腰のない生地は、着ているうちに形が崩れやすい。着姿が長く美しく保てるかどうかに、直接関わります。

さらに、光の当たり方を変えながら見ます。上質な絹は、光の角度によって色の表情が変わります。正面から見たときと、斜めから見たときで、同じ着物が違う顔を見せる。これは絹の光沢が生み出す豊かさです。

女将の目線から

母方の祖父は京友禅の染め師でした。幼い頃から染場に連れていかれ、白生地が選ばれ、色を入れられ、仕上がっていく過程を繰り返し見ました。その経験が、「この白生地で染めたらどうなるか」を想像する力を、私の中に育ててくれました。

生地を見る眼は、一朝一夕では身につきません。でも、「触れてみる」「比べてみる」を繰り返すことで、少しずつわかってきます。良い店は、比べるための「基準となる一枚」を必ず持っています。

染めや織りに、どのような仕事が施されているか

染めと織りは、着物の「表情」を作るものです。同じ白生地に、同じ図案を使っても、染める職人が変われば着物はまったく別の顔になります。

色の「澄み方」を見る

私が染めを見るとき、最初に確かめるのは地色の澄み方です。職人が丁寧に染め上げた色は、一色に見えても、光の当たり方によって深みが現れます。「この地色、なんと澄んでいるのか」と思ったとき、その着物は本物の仕事がされています。

逆に、一見鮮やかでも「平板な色」があります。光がどの方向から当たっても同じに見える色は、職人の手より先に機械が仕事をしている可能性があります。色の深みは、人の手が積み重ねた工程の数に比例します。

柄の「流れ方」を見る

柄が「流れている」かどうかも、重要な確認点です。着物は平面の布ですが、纏われたとき、立体の人体の上で柄が動きます。優れた図案家が描いた柄は、肩から裾へ、袖へ、柄が自然に流れ込むように描かれています。纏ったとき、柄が「着物を着た人の動き」と一緒に生きているように見える。

平面で広げたときの柄の美しさと、着姿として動いたときの美しさは、別物です。その両方を同時に解いた柄は、図案家の深い経験から生まれます。

染めの良し悪しは、色の多さではありません。
一色の澄み方に、職人の力量が現れます。

織りの場合――「目」と「手触り」を見る

帯を中心とした織りの着物では、織りの目の均一性と密度を確かめます。西陣織の最上の袋帯は、柄の裏側を見ると、整然と美しい経糸が並んでいます。表の柄だけでなく、見えない裏まで仕事が行き届いている——それが本物の織りです。

また、手触りで「硬さ」を確かめます。良い帯は、適度な硬さとしなやかさを両立しています。締めたときに形が崩れず、しかし腰に沿ってくれる。その感触は、実物を手にしなければわかりません。

実際にお召しになったとき、美しいか|着姿

技法、生地、染め——三つを確かめた後、最後に確かめることが、着姿です。これが一番大切で、同時に一番難しい確認です。

平面で広げたとき、どれほど美しい着物でも、纏ってみると「なぜか似合わない」ということがあります。逆に、広げた状態では控えめに見えても、袖を通した瞬間に「この着物はこの方のものだ」とわかる着物があります。着物は、人が纏ってはじめて完成するものです。

着姿で私が確かめること

お客様に実際にお羽織いただくとき、私が見ているのは着物ではなく、お客様のお顔です。地色がお顔に光を送っているか。柄がお体の動きに添っているか。衿元が自然に落ち着いているか。帯と合わせたとき、全体がひとつの調和になっているか。

そして最後に、お客様の表情を見ます。鏡を見たときに、目元が少し明るくなるか。姿勢が自然に伸びるか。口元に、わずかな笑みが浮かぶか——それが「この着物が、この方に似合っている」という答えです。言葉より先に、体が知っています。

着姿で確信した、あの一枚|実話

先日、薄いグリーンの地に花かごを描いた付下げをお持ちのお客様が、「女将さんに帯を選んでほしい」とおっしゃってご来店されました。五歳のお子様がいらっしゃる三十代のお母様で、これから着物を着る機会を増やしたいとのことでした。

私がお選びしたのは、その薄グリーンの付下げに、銀地の七宝文様を織り出した綾錦の袋帯でした。派手ではないけれど、確かな格がある。そういう組み合わせを「褒められ着物」と私は呼んでいます。

帯を着物の上から巻いた瞬間、お客様の表情が変わりました。「あ」という声を出されて、鏡からしばらく目が離せないようでした。その後、お子様の行事でこの着物を着ていかれて、「周りの方にとても褒めていただいた」とご連絡をいただきました。

女将の確信

着姿は、着物と人が出会う瞬間に生まれます。私がお見立てで一番大切にしているのは、その瞬間をお客様と一緒に見ることです。

「本当に良い着物」とは、その方にとって良い着物です|目利きの先にあるもの

技法、生地、染め、着姿——四つを確かめると申し上げましたが、最終的に「良い着物」の定義は、「その方にとって良いか」に尽きます。

どれほど精緻な手描き友禅でも、その方の着る場面に合わなければ意味がありません。どれほど高級な生地を使っていても、その方の肌色に合わなければ着姿は美しくはなりません。「良い着物」は、着物単体では決まらず、着る人と着る場面との関係の中で決まります。

だから私は、「高い着物が良い着物」とは申しません。「この方にとって、今、最もふさわしい着物が良い着物」と申し上げます。それが五万円の着物であっても、百万円の着物であっても、答えの出し方は同じです。

「着物の良し悪しを判断するのは、私の仕事です。でも、その着物がその方に良いかどうかを決めるのは、お客様ご自身の着姿です。私は、その答えを一緒に見つけるお手伝いをしています」

「本当に良い着物とは何かを、わかるように教えてくれる店」でありたい

私が目指しているのは、着物を売るだけでなく、「なぜこの着物が良いのか」をお客様にわかるようにお伝えできる店です。

技法の話、生地の話、染めの話——こういった話をお客様にお伝えしながら着物を選ぶとき、お客様の眼が変わっていく瞬間があります。「へえ、そういうことなのか」という顔になって、着物を見る視線が変わる。そうなると、着物を「買う」という行為が、「知る」という体験になります。

着物を知ることは、日本の美意識を知ることです。染めの技法は、日本の色の文化の歴史です。生地は、蚕から糸へ、糸から布への長い時間です。それを一枚の着物が凝縮して伝えてくれる。その豊かさを、着物を選ぶ時間の中でお伝えできたなら、それがはっとりの本当の仕事だと思っています。

「良い着物を、わかるように教えてくれる店」でありたい

染と呉服はっとりでは、着物をご覧いただくとき、技法や生地のことをお話ししながらご紹介しています。「難しい話をされるのでは」と思われる方もいるかもしれませんが、難しくはありません。「なぜこの糸目の線が美しいのか」「なぜこの地色が澄んでいるのか」を、実物を前に、指で触れながらお話しすると、すぐに感じていただけます。

着物は、知れば知るほど面白くなるものです。一度「良い仕事」を体で知ると、次からの選び方が変わります。そういう体験をご来店のたびにしていただけるよう、女将として準備しています。

「着物に興味があるが、何もわからない」という方も、「ある程度は知っているが、もっと知りたい」という方も、どうぞいらしてください。完全予約制でお一人おひとりに時間をかけてお向き合いします。

染と呉服はっとり 四代目女将 服部容江

着物のことを、実物を前にご説明しながらご相談いただけます。
完全予約制・ご相談無料。どうぞお気軽にどうぞ。

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Tel: 0742-44-1444 営業時間:10:00〜17:00(月曜定休)
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着物は素敵だけれど、どうしたらいいの?管理の仕方は?
何から始めればいいのか、さぁ困った。
皆さんお着物を日常にお召しになられないのでこんな疑問は当たり前のことです。
どうぞご相談下さいませ。一緒に考えさせていただきます。
呉服専門店は、そんな皆様の道先案内人となって差し上げます。

奈良県の北西部近鉄線学園前駅徒歩2分。
閑静な高級住宅街で有名な学園北のお屋敷街の中に
ひっそりとたたずむ知る人ぞ知る隠れ家呉服店です。

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