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女将手帖|亡き人と同じ時間を纏う──曾祖母の宮古上布の記憶

曾祖母から伝わる宮古上布 先人の教え

当店の創業者である曾祖母の宮古上布と、言葉にならない時間について

店主として、日々多くのお着物と向き合っています。反物を選び、仕立てを整え、お客様の晴れの日をお支えする。それが私どもの仕事です。ですが今日は、仕事の話ではなく、私自身のごく個人的なお話をさせてください。

なぜ私が、これほどまでに「着物を受け継ぐこと」を大切に思うのか。こだわるのか。

その理由は、一枚の着物にあります。曾祖母から伝わった、宮古上布の一枚です。

曾祖母が遺した、一枚の宮古上布

宮古上布は、沖縄・宮古島で育った苧麻(ちょま)の繊維を手績みし、絣を織り込みながら仕上げていく、たいへん手間のかかる織物です。深い藍で染め上げられた地に、砧打ちによって独特の光沢が生まれます。一反を仕上げるのに、数年の歳月がかかることも珍しくありません。

その宮古上布は、曾祖母がまだ若かった頃に手にしたものだと聞いています。私が生まれるよりずっと前、曾祖母がどんな思いでこの一枚を選び、どんな場面で袖を通したのか、詳しいことはもう分かりません。けれど、その着物は色褪せることなく、100年以上もの時を越えて、今も私の手元にあります。

着継ぎの記録

初めてこの宮古上布に袖を通したのは、私がまだ着物の仕事を継ぐと決める前のことでした。夏の盛り、鏡の前でその着物を身にまとった瞬間、涼やかな苧麻の風合いが肌に触れ、不思議な感覚に包まれたのを覚えています。私が3歳の頃亡くなった曾祖母の手が、遠い時間を越えて、私の肩にそっと触れているような。そんな感覚でした。

亡き人と、時間を分かち合うということ

着物というものは、不思議なものです。同じ生地、同じ柄、同じ仕立てのまま、何十年も、時には百年近くも姿を変えずに残ります。曾祖母が触れたのと同じ糸に、同じ藍の色に、私も今、指先で触れている。そう思うと、曾祖母との間に、確かな繋がりを感じるのです。

それは、写真やお仏壇の前で手を合わせるのとは、また違う感覚です。着物に袖を通すという、身体を通した行為だからこそ生まれる感覚なのだと思います。宮古上布を纏うと、曾祖母が生きた夏の暑さや、汗ばむ肌に涼を求めた同じ気持ちを、時代を越えて共有しているような気がしてきます。

着物を纏うことは、亡き人と同じ時間を、もう一度生きることなのかもしれません。

言葉にしてしまうと、どこか薄れてしまうような感覚です。けれど確かに、あの着物に袖を通すたび、私は一人ではないと感じます。曾祖母に見守られているような、静かな安心感です。それは理屈で説明できるものではなく、ただ着物を通して、身体で分かることなのだと思います。

女将のひと言

「着物は、亡き人の温もりを
この身に残しておいてくれる
数少ないものの一つです」

受け継ぐことは、支えられること

宮古上布を手にするたび、私は「受け継ぐ」ということの本当の意味を考えます。それは単に、古いものを大切に保管することではありません。覚えぬ人の手仕事や、選んだ気持ちや、生きた時間そのものを、自分の身に纏うことです。

不安なとき、迷いがあるとき、私はこの宮古上布のことを思い出します。曾祖母もまた、この着物を選んだ日、何かしらの想いを抱えていたのかもしれません。はっきりと覚えていないその人が、確かに私より先にこの世を生き、この着物を遺してくれた。そう思うだけで、なぜか背筋が伸び、守られているような心持ちになるのです。

実話

今でも夏になると、私はこの宮古上布に袖を通します。畳紙を開き、そっと着物を広げる時間は、私にとって曾祖母と静かに向き合うひとときです。誰かに話したことはあまりありませんが、その時間だけは、なぜか心が凪いでいくのを感じます。

女 将 の 目 線

着物は、言葉にならないものを
運んでくれる

お客様にお仕立てのご相談をいただくとき、私はよくこの宮古上布のことを思い出します。着物とは、ただ美しい一枚の衣装ではありません。それを選んだ人の想い、それを纏った人の時間、そのすべてが織り込まれていくものです。

お母様からお嬢様へ、祖母から孫へ。血の繋がりを越えて、想いそのものが受け継がれていく。そこには、言葉では説明しきれない何かが確かに存在します。私自身、曾祖母に会ったことは一度もありません。それでもこの一枚を纏うたび、私は確かに、曾祖母と時間を共にしているのです。

だからこそ私どもは、お仕立ての際、目先の華やかさだけでなく、何十年、何世代と先まで想いを運べる一枚であるかを、何より大切に考えています。今日お選びいただく一枚が、いつか誰かにとって、言葉にならない安心を運ぶ日が来るかもしれません。

宮古上布に見る、藍の色

宮古上布の魅力の一つは、深く澄んだ藍の色にあります。日本には、藍だけでも幾通りもの呼び名があります。曾祖母の着物に宿る色に近い、伝統色をいくつかご紹介します。

受け継ぐという文化を、これからも

着物を受け継ぐということは、古いものを守るだけの行為ではありません。会ったことのない誰かの想いや時間を、自分の身に纏い、次の世代へと繋いでいくことです。そこには、写真にも言葉にも残らない、確かな何かがあります。

私が呉服の仕事を続けている理由の一つは、間違いなくこの宮古上布にあります。お客様にお仕立ての品をお渡しするとき、私はいつも、この一枚がいつかどなたかにとって、そうした言葉にならない安心を運ぶ日が来ることを願っています。

女 将 よ り

今日は少し、私自身の話をさせていただきました。曾祖母の宮古上布は、今も大切に、私の手元にあります。この着物を纏うたび、私は一人ではないのだと感じます。

お着物には、代々受け継がれていく力があります。お手元にある着物の仕立て直しや、これから先へ繋いでいきたい一枚がございましたら、どうぞ染と呉服はっとりへご相談ください。反物を前に、じっくりとお話を伺わせていただきます。

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